黄海(ホアン・ハイ)の映画ポスターが美しい!「トトロ」「万引き家族」画風の魅力は写意にあり!
こちらはcctvで放送された人気ドキュメンタリー『舌尖上的中国』のポスター。中国風ばかりでなくポップな作品もあります。
『千と千尋の神隠し』の中国公開にともなって、中国版の映画ポスターをデザインした中国のビジュアルアーティスト黄海(ホアン・ハイ)氏が話題になっています。
『となりのトトロ』と『万引き家族』の中国版ポスターはイギリスの映画雑誌『Little White Lies』が選んだ2018年の映画ポスターベスト20にランクインし、それぞれ10位と1位を獲得しています。
中国では「ポスターでチケットを買わせる」と言われ、世界から注目を集めている黄海(ホアン・ハイ)氏とその作品をご紹介しましょう。
ホアン・ハイ(黄海)プロフィール
子供の頃から絵を描くのが好きで美術の道に進んだホアン・ハイ氏。
1999年、アモイ大学をデザイン科を卒業するとテレビ局に就職し、美術制作とは全く関係のない社会部の記者をしていました。当時はデザイナーという職業が低く評価されていたために、環境の中で潰されることを恐れたためだそうです。
2002年、北京に上京すると広告界の“黄埔軍校”(1924年~1930年まで国民党が広東に置いた陸軍軍官養成学校)と呼ばれるオグルヴィ・アンド・メイザー北京に入社し、台湾の広告コピーの匠、劉継武氏に師事。
5年後にオグルヴィ・アンド・メイザー社を離れ、小規模な広告会社のアートディレクターに。
「規模の小さい会社のほうが、反応は早く効率がいいから」とのこと。
その会社でホアン・ハイ氏が最初に受けた仕事がチアン・ウェン監督の『陽もまた昇る(原題:太陽照常昇起)』のポスターでした。
この制作が彼を再び創作の虜にしたようです。
チアン・ウェンの好みはうるさく、数百枚描いても満足しなかったとか。
最終的に赤をベースに中国風のニュアンスで制作した1枚がチアン・ウェンの目に留まり、これがカンヌ映画祭に出品する際のポスターとなりました。
チアン・ウェンの次の依頼『さらば復讐の狼たちよ(原題:譲子弾飛)』のポスターでは、ホアン・ハイ氏が「鳥の羽と弾丸」のモチーフを使う提案は、チアン・ウェンは一発でOKが出ました。
2012年には自身のスタジオ竹也文化工作室を設立。
「竹」は中国で君子の気質を表すと言われる蘭、竹、菊、梅の中で、ホアン・ハイ氏が最も好きなのが竹であることから命名したそうです。
このスタジオでは2014年に上映された許鞍華監督の『黄金時代』ポスターを担当しました。
この作品は中華民国期に実在した作家・蕭紅の生涯を描いたもの。
文人の手段であり武器である文字やペン、墨などをモチーフに蕭紅の運命が象徴的に表されています。
『黄金時代』5枚のポスター制作には半年の歳月を費やしています。
ホアン・ハイのポスター制作は脚本と監督を知ることから
広告を作る際には商業的な要素だけを考えていたというホアン・ハイ氏ですが、映画のポスター制作においては基本的に脚本が出発点であり、脚本を咀嚼しきらないと核心は練り出せないと言います。
また脚本分析以外に監督と話をしたり、撮影現場に脚を運ぶこともあるとか。
こうした作品自体を十分に理解することで、無駄を削ぎ取った作品の核心を描き出すことができるんですね。
許鞍華監督は脚本派、ウォン・カーウァイ(王家衛)監督やツイ・ハーク(徐克)監督のようなアート派というように監督はそれぞれ自分のシステムを持っている。ポスターは映画を構成する素材の1つであり、あらゆる素材は監督自身のシステムの中に組み込まれる。だからまず監督を理解する必要があると語るホアン・ハイ氏。
制作の前には、スチールはもちろん脚本にも丹念に目を通して監督の意向を探ります。
ホアン・ハイ氏は現在、中国でトップクラスのギャラを取るポスターデザイナーであり、その制作期間が長いことでも知られています。それでも、有名監督からの依頼があとを絶ちません。ホアン・ハイ氏の作品は商業性と文芸性の融合が可能なデザイナーと評価されているゆえでしょう。
脚本を読み込んで、監督の意図するところを探る。こういう制作をされたら、そりゃ監督冥利に尽きるはず。
民族的な伝統に革新を
「皆が功利性に走り、盲目的に西洋の理念や技術を学ぶかたわらで東方の美意識を失っている」というホアン・ハイ氏。
ホアン・ハイ氏の叔父は中国美術学院の教授で、幼い頃から叔父の絵を目にしてきたことが、彼の作風にも影響を与えているようです。
彼自身、今でも表現手段や表現スタイルを模索するために余暇に毛筆の書道を練習するそうです。「中国の美意識は水墨画や書道という単純なものではなく、一種の思想であり意境」というホアン・ハイ氏。
例えばチャウ・シンチー(周星馳)監督の『カンフー・ハッスル』(原題:功夫)のポスターでは左手を立てて、直立するチャウ・シンチーの背後に配置した巨大な蝶の羽根は、
「この手法は技術的にはハリウッドのものだが思想は東洋のもの。古代宮廷建築の対称の概念を用いている」と説明しています。
またハリウッドの手法以外に日本のデザインも研究しているとのこと。
「日本は中国の一番いいものを学び取って、東方の芸術を作り出している。日本は商業社会だが、美学が不可分な商業社会だ。いかに美学を革新的な価値に変えるか、いかに伝統的な民族特性の上に革新を加えるか、これが私たちが学ぶべきこと」だそうです。
ドラえもん中国版のポスターもすばらしい!
日本で話題になった『となりのトトロ』『泥棒家族』『千と千尋の神隠し』などのポスターはいずれも素敵なのですが、私が日本映画の中国版ポスターですばらしいなと思ったのは、『スタンドバイミー ドラえもん』のポスター4作。
中国タイトルは『哆啦A梦:伴我同行』
中国の4代古典、『紅楼夢』『三国志』『水滸伝』『西遊記』をモチーフに、それぞれかけがえのない関係を表現しているところが、まさに「スタンドバイミー」であります。
子供が対象の作品であることを考えても、いろいろな意味でうまいなあと感動!
ホアン・ハイ氏の言葉どおり、彼のポスターは彼が解釈した作品の境地が表現されていると思います。
単に中国的モチーフを多く使っているということよりも、映画自体の精神、監督の思いを表現しようとしているところが中国画に見られる写意のスタイルだなと思いました。
子供の頃から叔父の書く中国画に触れていたせいもあるでしょうか。
「ポスターでチケットを買わせる」というのは分かります。
私も『道士下山』のポスターを見て、これは見なければと思いましたから。
映画自体はいまひとつでしたけどね。
今のところはまだないようですが、作品集が出版されるといいなと思っています。